「認知行動療法」はパニック障害に有効なカウンセリング(心理療法)として、比較的多くの精神科や心療内科でもカウンセリングの「第一選択」として取り入れられており、これまで様々な実績を残しています。
ここでは「認知行動療法」とはどのようなものか?いろんな側面から詳しく見ていきましょう。
認知行動療法(CBT)とはなにか(概要)
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)は、物の考え方(認知)と行動に働きかけることで心の負担を軽減し、問題解決を目指すといった心理療法のひとつです。
認知行動療法はパニック障害以外にもあらゆる神経症に有効とされており、抑うつ神経症、不安障害、摂食障害、適応障害など、世界的にも幅広く取り入れられているんですね。
また、日本では心理カウンセラーが在籍している心療内科や精神科などでは保険適用されているところもあり、比較的利用しやすくなっています。
認知行動療法は「認知」と「行動」を変えて感情をコントロールする
認知行動療法(以下CBT)の基本的な考えかたは、
「私たちの感情や体調は「できごと」そのものではなく、その「できごと」をどう捉えるか?という「認知(考えかた)」によって決まる」
とされています。
たとえばですが、パニック障害の人が「動悸がする」というできごとに対し、
「これはきっと心臓の病気だ、死んでしまう!」
と悲観的な認知(考えかた)をすると、強い不安(感情)が生じやすくなりますよね。
CBTでは、この悲観的な認知を「これはパニック発作の症状であり命に別状はない」という、より現実的でバランスの取れた認知へと修正していきます。
それと同時に不安や恐怖によって避けている行動(例:電車に乗る、コンビニで買い物する、歯医者で治療する、など)を段階的に練習していくことで、悪循環を断ち切ることを目指します。

クライアントさん自ら特定のスキルを学び、練習を通じて身につけていくというような教育的な側面が強く、心理カウンセラーとクライアントが協力して目標を達成していく共同作業であることも大きな特徴なんですね。
その他のカウンセリング(心理療法)では「学ぶ+行動」というのはほぼ見かけませんので、まさしく「共同作業」という言葉が当てはまります。
認知行動療法はどちらかというと短期間で集中的におこなわれ、症状の改善だけではなく再発予防にも効果を持つとされています。
認知行動療法の主な特徴(問題焦点型とエビデンスベース)
認知行動療法(CBT)は、その理論的背景と実践方法において、従来の心理療法とは異なるいくつかの特徴を持っています。
「いま」と「未来」に焦点を当てる(問題焦点型)
CBTはクライアントさんが「いま」抱えている具体的な問題(例:パニック発作、広場恐怖による外出困難など)を抽出し、その解決に向けて焦点を当てていきます。
過去の原因を深掘りするよりも「現在」の不適応な思考パターンや行動パターンを特定し、それを「未来」に向けて改善していく、ということを目指しているんですね。
この「問題焦点型」のアプローチにより、比較的短期間(数週間から数ヶ月)で効果を実感しやすいというのが特徴です。
ただし、数週間から数か月で確実に改善するということではなく、あくまで統計ベースとなっている点に注意してください。
具体的なスキルを学ぶ(構造化・教育的側面)
CBTは、心理カウンセラーとクライアントが協力して目標を設定し、不安を乗り越えるための具体的な心理的スキルや対処法を学ぶといった「教育的」な側面を持っています。
カウンセリングセッションは構造化されており、カウンセラーからクライアントさんへの傾聴に留まらず、ホームワーク(宿題)を通じて日常生活で実践することを重視します。
宿題というと身構えてしまうかもしれませんが、このCBTを通じて「自立的な問題解決能力」を身につけることを目標としていますので、クライアントさんが自分の足で未来を歩いていけるよう、支援する形です。
科学的根拠(エビデンス)に基づいている
CBTのカウンセリング技法は多くのカウンセリングの研究により、その有効性が認められています。
とくにパニック障害や不安障害などの神経症においては「カウンセリングの第一選択」とされているように大きな効果に基づき、再発予防効果も高いと言われているんですね。
「エビデンス」とは証拠、根拠、裏付け、形跡、というような意味合いであり、科学的な根拠とされているものです。
CBTはこの「エビデンスベース」であるという点が認知され、世界中で標準的な心理療法として広く採用されている最大の理由と言えるでしょう。
認知行動療法がパニック障害に有効な理由
CBTがパニック障害に対して非常に高い有効性を示す最大の理由は2つあります。
ひとつはパニック障害のメカニズムを科学的に解明しているという点。そしてもうひとつは、そこに直接介入する手法が確立されているという点です。
具体的に言うと、以下の3つのポイントがパニック障害の改善において大きく関与しています。
①「破滅的解釈」を修正する
パニック障害の核心にあると言えるのは、動悸やめまい、震えといった身体感覚を「心臓発作だ」「気が狂ってしまう」といった最悪の事態に結びつけてしまう部分にあります。
これは「破滅的解釈」と呼ばれるもので、CBTではこの誤った思考パターンを特定し、
「動悸は自律神経の自然な反応であり、危険ではない」
という現実的な解釈へと書き換えていくんですね。
この、いわゆる“認知の修正”が恐怖の連鎖を根底から断ち切ることにつながります。
② 身体感覚への慣れを促進する
パニック障害の人は動悸や息苦しさ、めまいといった身体感覚に対し過敏になっていることがほとんどです。
CBTではあえて安全な環境で軽い運動などをおこない、嫌な感覚を意図的に引き起こす練習(内部感覚曝露)をおこなうことがあります。
この暴露をくり返すことで、脳が「この感覚は怖くない」という学習がすすみ、身体感覚への過敏が低下していくんですね。
これを「習慣化」と呼び、パニック発作そのものを起きにくくする効果があります。
③ 回避行動と安全行動を解消していく
たとえばですが「不安が強いから電車に乗らない(回避)」や「お守りや薬を持っていないと外出できない(安全行動)」といったことは多くの人が経験あることでしょう。
このような回避と安全行動は一時的な安心感を与えますが、長期的には「自分には対処する力がない」という信念を強めてしまいます。
CBTはこれらの行動を段階的に手放すサポートをおこない「回避せずに済んだ」という成功体験を積み重ねることで、自分自身のコントロール感を回復へ導き、予期不安の減少につなげていきます。
このように“考え方”と“行動”の両面から悪循環のパターンを壊していき、最終的には再発しにくい回復を目指していきます。
認知行動療法の具体的な実践方法とステップ
CBTの基本的な形式ですが、闇雲に不安に立ち向かうというものではなく、段階を踏んで着実に進めていく「プログラム」という形式をとります。
この「プログラム」という形式ですが、以下の4つのステップで進められていきます。
【ステップ1】セルフモニタリングと心理教育
ファーストステップとして、まずは自分の症状がどのような状況で起き、その時どんな考え(自動思考)が浮かんだか?を記録する日記をつけていきます。
それと同時にパニック発作のメカニズムを正しく学び、発作で死ぬことはない、恐怖は波のように必ず過ぎ去る、というような知識を深く理解していくんですね。
日記をつける、知識を得ることを通じ客観的に観察することが、完治/改善へ向けた第一歩となります。
【ステップ2】認知再構成法(考えかたの修正)
CBTには「認知再構成法」という理論があり、こちらをステップ2としてすすめていきます。
これは強い不安やパニック発作を引き起こす「極端な考えかた」という認知を再構成し、柔軟なものに変えていくといった作業です。
この「認知再構成法」は以下のようなプロセスを用います。
強い不安やパニック発作はつらく苦しいものであり、最悪の考えが浮かんでしまうことがあります。それに対し、
「いままで何度も発作は起きたが、一度も心臓は止まっていない」
という事実、最悪な展開には陥っていないという(証拠)を集めていきます。
たとえば動悸や震え、冷や汗といった症状が起きたとき、「これはパニック発作の症状であり、10分待てば落ち着いていく」という冷静な物の見かた、捉えかたに書き換えていきます。
【ステップ3】曝露療法(エクスポージャー)
回避している状況や場所、恐れている身体感覚に段階的に慣れていく練習をおこなっていくのがこのステップ3になります。
段階的に慣れていくための方法(暴露)は、以下の2つとなります。
意図的にその場で足踏みをしたり(心臓の鼓動を早める)、ストローで息を吸う(息ぐるしさを演出する)ことでわざと嫌な感覚を作り出し、それに段々と慣れていくことで、
「この感覚は不快だが危険ではない」
ことを脳に教え込んでいく、といった作業です。
自分の内部で起きていることを暴いていき、それに慣れていくようすすめることで危険度が下がっていきますので、とても大切なプロセスとなります。
「エレベーターに乗る」
「電車に乗る」
「人の多いところに身を置く」
「買い物でレジ待ちをする」
など、あえて避けている場所のリスト(不安階層表)を作り、難易度の低いものから少しずつ挑戦していきます。
「早く慣れていかなければ」など気が焦ってしまうかもしれませんが、いきなり難易度が中~上くらいをすすめてしまうと身体が拒絶する可能性があり、不安が強まってしまうかもしれません。
気が焦ってもあくまで「これはとても大切なステップだ」と気持ちを切り替え、難易度の低いところから挑戦していきましょう。
【ステップ 4】再発予防と終結
症状が改善してきたら、ストレスがかかった時にどう対処するか?もし再び不安に襲われたらどうするか?などあらかじめ計画を立てておくのが良いでしょう。
予期不安やパニック発作の嫌な感覚がしたとき、それらを自分で対処できるようになる「自律」がゴールとなります。
ステップ1からステップ4まで遠い道筋に感じるかもしれませんが、先のことを考えずに淡々と目の前のステップをすすめていくことで、いつの間にか思考と行動が改善され、客観的に自分を見れるようになっていきます。
諦めずにこれらのステップをくり返すこと。それが結果的に不安に対する「コントロール感」を取り戻し、以前のような自由な生活を送ることができるようになります。
5、認知行動療法の実践における注意点と心がまえ
認知行動療法(CBT)はパニック障害において非常に高い改善率を誇る手法です。
ですが、そのプロセスは時に「トレーニング」のような根気を必要とし、最初のやる気やモチベーションが下がってしまい途中で止まってしまうかもしれません。
そうならないよう、CBTを円滑に進めるためには以下の3つのポイントを意識するようにしましょう。
① 正解を求めるのではなく実験と捉えてみる
CBTにおいて思考の領域(頭で理解すること)も大切ですが、思考より大切なことが「やってみて確かめる」という姿勢なんですね。
認知の修正や曝露療法(エクスポージャー)をおこなうとき、
「こう考えなければならない」
など正解を探しすぎるとそれが新たなプレッシャーとなってしまい、失敗を恐れ動けなくなってしまうことはよくあります。
頭のなかで確実な正解を探るのではなく、
「自分の頭に湧き上がる“予期不安”が本当に正しいかどうか?実験して検証してみよう」
というような、科学者的な気持ち、客観的なスタンスで取り組むことがCBTによる改善を成功させるコツです。
② 焦らず“小さな行動”ですすんでいく
先ほども少し述べましたが、暴露療法では最初から大きな目標、たとえばいきなり急行電車に乗るなど大きく挑戦すると、強い不安感から強めのパニック発作が起こる可能性があり、逆効果になるかもしれません。
大切なことは、いまの自分に可能な範囲、“少しだけ勇気が必要なこと”から始めていくことです。
一歩一歩の階段を小さく設定し、成功体験を確実に積み重ねることが結果的には脳の恐怖回路を書き換える最短ルートとなりますので。
③ 森田療法との共存と使いわけ
森田療法では「症状をあるがままに放っておく」ことを重視しますが、認知行動療法では「考え方を変え、積極的に立ち向かう」というアプローチを取ります。
下記のページは森田療法に関する説明となりますので合わせてお読みください↓↓↓↓
森田療法と認知行動療法、この2つは一見まったく違う心理療法に見えますが、実は“不安を抱えながらも生活や行動範囲を広げていく”という点では共通しているんですね。
これら2つの心理療法を、ときにうまく使いわけるのも良い方法であり、たとえば、
強めの予期不安やパニック発作を感じたら、森田療法的な「やり過ごし・受容」
日常生活でのステップにはCBT的な「分析・練習」
というように、自分の状態やこころの状態に合わせて、カウンセラーと相談しながら最適なバランスで取り入れるのが理想です。
ほぼすべてのカウンセリング(心理療法)に当てはまることですが、とくにCBTはカウンセラーとの共同作業が必要であり、信頼関係を育んでいくことが大切です。
自分の不安やワーク(日常のステップ)への抵抗感を素直に共有できるカウンセラーとの信頼関係、それは大きなこころの支えとなります。
一人で抱え込んでしまうとなかなか抜け出せませんが、専門家との二人三脚ですすんでいくこと、それが改善への近道となるでしょう。
さて、いかがでしたか?認知行動療法についての説明は以上となります。
続いて他のカウンセリング(心理療法)についてはそれぞれ下記からおすすみください。
▶ 3、来談者中心療法(傾聴技法)について詳しくはこちらから
▶ 4、家族療法について詳しくはこちらから
▶ 5、TA・ゲシュタルト療法について詳しくはこちらから
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▶ 7、マインドフルネス認知療法について詳しくはこちらから
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「この動悸はきっと心臓発作だ!」というような悪い方向へつなげてしまう考えかた、いわゆる「自動思考」に陥っている箇所を見つけていきます。